バレンタインネタが、思いのほか少なかったので自分で書いてみた。

バレンタインは、現代日本と同じ意味合いで、スレイ世界でも浸透している

設定で読んでください。

 

3年目

 

 一緒に旅を始めた最初の年は、軽く明るく、手渡した。

「はいガウリイ、バレンタインのチョコレート」

「くれるのか・・・」

「そーよ、バレンタインだから愛を込めて義理チョコよ、ありがたく頂きなさい。」

「・・・ひとつ聞いていいか、呪文は、無しだぞ。・・・バレンタインって、なんだ?」

それから小一時間。バレンタインと義理チョコと本命チョコについて、説明する羽目になった。

この男が魔道だけでなく、かなり一般常識にも欠けていることが、図らずも判明した瞬間でもあった、まあ、それはいいとして。

 

2年目は、自称保護者に感謝を込めて、そう感謝を込めてのチョコだった。

義理なんだから問題ないのに、なぜか渡すまでに泊まっている宿の中をうろうろした、迷った。

「・・・ガウリイ、バレンタインだから義理チョコあげる。去年説明したでしょ覚えてる、感謝の念を込めての、義理チョコだから。」

「おう、ありがと。ああ、そういえば去年も貰ったな。そんなに義理のところを強調せんでもいいだろう。毎年ありがとう。」

にこりと笑って、私の頭にぽんと手を置いた、頭に手を置くなとひとしきり文句は言ったが、嬉しそうにしてくれたので、

とりあえずそれで満足した。

 

 3年目の今日は、朝から悩んでいる。否、悩んでいる訳ではない、渡す事は決まっている。

だが今回は、義理ではない。義理というにはあまりに重い、しかし本命というには、時間が経ち過ぎてしまった、どう考えても今更だ。

まあいい、考えていても仕方がない、あいつの事だ、どうせ深くは考えまい。

「ガウリイ、バレンタインのチョコあげる。今年はスペシャルに、リナちゃん手作りチョコだから、よく味わって食べるように。」

「ああ、ありがとう。あれ、今年は・・・まあいいか。」

「・・・」

って、何でそこで無言になるのよあたし、どうすればいいのさ、この微妙な空気を。

いや、でも義理とは言えない。義理ではないのだ通じなくても、だから言えない。

 ガウリイのやつは、無言のあたしとチョコの包みを交互に見て、背の高い体を折り曲げて、頭を私と同じ位置まで持ってきて、

「ありがとな、リナ。ちゃーんと。よっく味わって喰うからな。」

といって、二カっと笑ったのだ。にこりではない、最近は見なかった、そう知り合ったばかりの頃は時々見かけた、腹に一物隠しているような、

あの、人の悪そうな笑みだ。

あたしの顔に血が集中していくのがわかる、今ごろ真っ赤な顔をしているに違いない、でも引くに引けない。

ガウリイはそんなあたしの、頭ではなく肩を2回ぽんぽんと叩いて、離れていった。

いったい、何がちゃんとなのか、本当はどこまで分かっているのか。

聞き出したいが、聞き出せない、結局いつもここでもお終いだ。

 

いっそ呪文で吹き飛ばしたいような衝動に駆られるが、それが出来れば苦労はしない。

 

おわり

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