新装版15巻衣装替えネタ、あっさり文章が目標。さて、どうでしょう。

 

気分一新

 

「ちょっと、お嬢ちゃん。あの男の人あんたの何なんだい?大丈夫なの?」

「・・・」

またですか。何度聞いたか、このセリフ。

 

 2年以上一緒に旅した、こちらも憎からず想っている相棒に、お前の故郷に行こうと言われて、そりゃーそういう方向に考えが

行ってしまうのは、乙女としては当然の反応でしょう。実際、相棒は、これがムードもへったくれも無い、街道っ端で、結婚しようって

言って来ました。まあ、二つ返事で受けてしまった自分が、文句を言える筋合いじゃ無いですけど。

 そんな訳で、あたしの故郷でそういう事になってきた訳よ。

何故か、ガウリイと知り合いらしい、父ちゃんは、可愛い娘を嫁に出すというのに、

「そんなの、好き好んで貰っていくなら、返品不可だぞ。」

とかぬかしやがった。それが実の父の言う事か。まあ、しょうがない事も、ない事も無いけど・・・

 

 話を戻すけど、それで、また旅に出て来たんだけど、何故か行く先々で、さっきのようなセリフを聞かされるのよ。いや、そりゃ以前から、

何か不振そうな目で見られていたのは、知っていますよ。これまでは、別々に部屋を取っていたから、訊かれなかっただけ、なんでしょうけど。

 

「おばちゃん、あたしは18だから、18歳。あれは、人攫いとかの類じゃなくて、あたしの亭主だから。大丈夫だから。」

 それはもう、不機嫌を押し隠して、丁寧に返しますよ。あたしだって、いつまでも子供じゃないんですから。

 誘拐犯か女衒か何かと間違われた男は、これがまた当然のように、話を聞いていないし、こっちの方も腹立つわ。

 そもそも、いくらあたしが、幾つになっても、少女のように愛らしいからと言って、別に不審な行動をとっている訳でもないし、

何で行く先々で、これがまた人の良さげなおばちゃんに、心配そうにあんな事を言われなくちゃならないの。

 宿の部屋に入り、軽装とはいえ重そうなアーマーを外している、ガウリイをよくよく見るが、特に人相が悪いと言う訳でもなし、

端的に言ってしまえばイイ男だし、おばちゃん受けは良いはずだ。

「何だ、お前さっきから。オレ何か、変な格好でもしているのか?」

 あまり、じろじろ見すぎたか、さすがのこの男も不審におもったらしい、とりあえずぶんぶん首振って、否定しておく。格好なんて、

あんたの格好は、最初に会った時から大差ないじゃん。待てよ、格好と言えば、あたし達の格好、前と一緒だよね。

いかにもな魔道士装備と一目で傭兵とわかる軽装鎧、そうかこれか。

 

翌朝、朝食を終えたらさっそく、行き先も教えないから、不満たらたらの男を引っ張って、宿のおばちゃんから聞いた仕立て屋に向かった。

「お前、今更どっか成長して、服がきつくなったのか?」

「・・・今更、どこも成長しないわよ。あたしだけじゃなくて、あんたも作るの。」

「何だ、期待して損した。」

「訳わかんない事を言ってないで、さっさと入るの。すみませーん!」

「いらっしゃいませ。お仕立てですか、お直しですか。」

 愛想良く出てきたのは、30代半ばくらいの女の人で、奥からのそのそ付いてきたのは、同じ歳ぐらいの男の人、まあ、ここの店主と

奥さんなんでしょうね。二人分の仕立てを頼むと、じゃあ先にと、さっそく寸法を測られた。

「リナ、オレの服は、別にどこも何ともないぞ。」

「あたしの服も何ともないわよ。いいじゃないの、折角だから気分も新たにする意味での、衣装替えよ。」

「何が折角なんだか。結婚した時ならともかく。」

 おのれ、大抵のことには無関心なくせに、何で今回だけ、そうやたらと突っ込んでくるかな。

「まあまあ、御主人さん、女の人はそんな気分の時もありますよ。特にこんなに若い奥さんですから、旅先でも綺麗なところ見せて

おきたいですよね。」

 いや、そんなニコニコして、背中がむず痒くなる事を言われても、それにあたしは、新婚の奥さんとしては、もうそんなに若い方じゃ

ないですけど。やっぱり、そう見えるのか。

 布地やデザインの話になると、オレは動き易けりゃいいから任せると、ガウリイは店から出て行ってしまった。服に興味がないのは、

わかっていたけど、もうちょっと・・・いや、こっちとしては、都合がいいんだけど。

 あれこれと注文して、出来上がりまで、4‐5日掛かると言われたので、ついでにと、この町で仕事を探したら、近隣の町で商いをする

商団の護衛という、ガウリイにピッタリの仕事を見つけたので、1週間ばかり一人で頑張ってもらう事にした。

何か不満そうなガウリイを送り出して、あたしはあたしで、やる事があるのだ。

 

1週間を1日過ぎて帰ってきたガウリイは、何故かボロボロであった。ガウリイ以外の護衛が見掛け倒しのスカだった上、盗賊の襲撃が3回、

何故かレッサーデーモンの群れに襲われる事2回、それを殆ど一人で倒してきたと言う。あたしが、慌てて追加料金を取りに行ったのは、言うまでもない。

「いやー、でもあれよ。やっぱり服を新調しておいて良かったでしょ。」

「何か、釈然としないけどな。で、服は、もう出来ているのか」

「多分ね。ああでもあんたの服は、何しろ仮縫いすっ飛ばしてるから、なるべく余裕のあるデザインにしてあるけど、ひょっとしたら合わないかも、

あんたこの1週間で太ったりしてないよね。」

「・・・、安心しろ。どっちかというと痩せたよ。」

 

そんな紆余曲折を経て、新調したあたしの服はどうよ。上着の裾はちょっと長めに、でも前を開けて大人っぽさを強調、手袋は長めでエレガントに、

胸のところにアクセントを入れて、あーあれよ、サイズを・・・まあ、ここはいいわ。魔道士のとしては外せないマントも着けて完璧。

これならもう、悪い兄ちゃんに騙されてる、お嬢ちゃんだとか、言われないで済むはずよ、ウン。

「で、リナ。お前はこの服でオレにどうしろと言うんだ。」

「何よ。任せるって言ったんだから、文句言わないでよ。」

「手袋は?」

「着けちゃダメ、その服には、あれ合わないから。」

「アーマーは?持って歩けって言うのか?」

「だって似合わないもん。いーじゃない、いざって時だけ着ければ。」

「いざって時に、そんな暇があるのか?」

「そこでこれよ、左手貸して。この石は、あたしが1週間掛けて、色々と封じ込んだ護符だから、火炎球や雷撃くらいなら簡単に防いじゃう

筈だから、これで文句無いでしょ。」

はぁ、とため息をついて、肩を落とすような仕草をして、

「わかった、わかった、もういいよ。お前の好きにしろ。」

と言って、倍くらいに増えた荷物を抱えて、店から出て行った。何よ、男の癖に、一度言った事は、翻すんじゃないわよ。

 そしてあたし達は、気分も一新して、改めて旅立った。何か隣でぶつぶつ言ってるけど、無視。

 

「ちょっと、お嬢ちゃん。あの男の人、あんたの何?」

 

「何でよ〜!どうしてそうなる訳!!」

 次の町で、宿のおばちゃんのセリフに、一人悶絶するあたしに向かって、ガウリイは、

「そういや、リナ。お前の新しい服。やたらと、あちこちの丈が長い所、何か子供が母親の服を持ち出して、ままごとでもしているみたいで可愛いな。」

とか、ぬかしやがった。そっち、ですかい。

 

おわり

 

ちなみにガウリイの新しい服は、別の意味で悪そうな男に見えるような気がした、私でした。

 

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