何もしないで、寝ているだけで幸せな話、のはずですが・・・

 

暗闇

 

ふと、目を覚ました。

いや、覚醒しているとは程遠い。夢の続きかと思うような、ゆらゆらと漂う意識の中、頬にあたる、丸めた毛布の感触、体の下は、硬い板の間の感触、

ゆっくりと目を開ければ、目の前は真の闇。ふと、こみ上げてくる不安と、同時に手探りで差し出した手に触れるのは、滑らかな細い糸、いや長い髪だ。

 ああそうか、暗闇で目を覚ました少女は、目の前に流れているはずの、長い金髪を指に絡ませて、ようやく思い出した。

 

 1日で越えるには、いささか大きな山であっただけの事だ、知らない土地で無理をしても仕方がないと、日が暮れる前に辿り着いた猟師小屋を、

今夜の宿にしていたのだった。

 火を焚くほどの、季節ではない。猟師小屋は簡素とはいえ、獣に怯える必要はない程度の丈夫さはある。

 

 指に絡む、金であろうはずの長い髪をもてあそぶ少女には、闇の中の情景が手に取るようにわかっていた。

 男は、彼女に背を向けて横になっているが、眠ってなどいない、こんな場所で、少女が眠っているときに、同時に眠るような事は、決してない。

 少女に背を向けているのも、彼女を背中に隠し、自分は戸口を向いて、目の前に剣を置く。

 甘やかされているようで嫌になって、子ども扱いするなと、食って掛かった事もあったが、どちらにしてもこの男は、彼女が起きていようが寝ていようが、

外ではごく浅い眠りに就くだけだ、所詮そういう種類の人間なのだ。

 ならば、任せるところは任せれば良いと、少女は、結論付けた。

 

 寒くないとはいえ、戸口から吹き込むあろう風も、大きな体に遮られて、少女の元に届く事はない。

 守られたいなどと、思いもしない性格であるはずの少女だが、固い床の上で、どうせ寝てなどいない男の金髪を指で梳きながら、自分の為に風を遮っている、

大きな背中を思い浮かべて、何とも言い難い、やわらかな感情が湧き上がってくるのを、止める事は出来ない。

 その感情を何と呼べばいいのか、今結論はつかないが、それでも、再びゆるゆると襲って来た睡魔のように、抗いがたいその心地よさに、頬が緩んで

いるであろうから、先ほどまでは、不安の原因であった暗闇に感謝しつつ、金髪を指に絡めて、少女は、目を閉じた。

 

おわり

 

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