ただ寝ているだけで、幸せな話のガウリイサイド、これで幸せか?

 

気配

 

 男は、硬い板の間に、横になった。

 横になったところで、眠れる訳ではない事は、わかっているが、体を休めておいたほうがいいと、判断したからだ。山中の猟師小屋で

夜明かしが決まった後、虫を燻し出すために焚いた火は、連れの少女が眠りに付く前に消した。火を焚いていた方がいい場合もあるが、

この季節この狭い小屋の中で火など焚いたら、二人とも蒸し焼きだ。

 少女は、疲れているのか早々に眠りについた。

 小屋の中は漆黒の闇だが、男は、少女に夜行性動物かと言われるほど、夜目が利くので、薄ぼんやりとだが、狭い空間の内部を判別できる。

 

 山越えぐらい、一人でいた時は、何の苦にもならなかったし、むしろ人が居ない方が、気が楽な位だった。何かに襲われたところで、

襲われてから対処すればよかった。自分ひとりならば、どうでもよかったからだ。

 連れが出来てからは、勝手が違った。自分以外に、彼女の身も守らなければ、ならない。少女は守られている自覚も無ければ、

男の態度にも不満があるようだった。魔道のことには、詳しくない男にも、少女の凄さは判っていたが、ただ魔道以外は、確かに

腕は立つが、ほんの少女に過ぎない彼女に、まだ全幅の信頼をおくという訳には、いかなかった。

 だから、少女を背中に隠し、自分が入り口を向き、手元に剣を置く。

 

 夜半、小屋の中の気配が揺らいだ、もっとも慌てる事は無い。男の隣で眠っている少女の気配だ。寝ぼけてでもいるのか、ゆっくりとした動きで、

床に流れる男の髪に触れてきた。男は、思わず笑いそうになるのを、堪えていた。時折少女は、普段なら決して見せる事の無い、幼い面を見せてくる。

もっとも大抵は、今のように寝ぼけてでも、いるのだろう。

 背中の気配が、ゆるやかに静まっていき、再び穏やかな寝息が聞こえても、男が眠る事は無い。

 少女に対する思いは、なんと言えばいいのだろう。最初のうちは、守る事で自分にも、何か得るものが有るのではないか、という

程度のものだった気がする。

 今はどうかと言われても、明確な答えは無いが、少女を守る事で生じる緊張や、自らが傷つく事さえも、疎ましいと思えない事が、

言葉に表せなくても、男の思いなのだろう。

 その事が判っていても、その答えを自覚してしまうのは、まだ早いような気がしていた。

 少女の男に向ける光が、その幼さを凌ぐ日がくるまで、自覚は先送りしても構わないだろう。

 

 男は、漆黒の闇に意識を戻し、その思いと同じように、自らの気配を闇に隠した。

 

おわり

 

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