自分が思うのと、他人の印象は違うのではないかな、とか思った今日この頃。
色々と、そんな感じで読んでみてください。
例によって、何も事件は無いのに妙に長い物になってしまった。
お互い様
「可愛い」そんな誉め言葉、言われた事は、一度も無い。
「可愛げの無い子だね」と言われた事は、有ったけれど
「〜っ、うーΔ※×」」
目の前で、栗色の髪の少女が、テーブルに突っ伏してうめいている。
ここの所、面倒事というと、何故か一緒に動く事になる魔道士で、17歳だというが一見14,5歳にしか見えない童顔で、まあ愛らしいと言って
問題は無いこの少女が、あのリナ=インバースだとは、まったく聞くと見るとでは大違いだ。
「あーあ・・・潰れちまったのか。悪いな、面倒かけて。」
ほんのわずかの間、席を離れていた彼女の相棒は、あまり悪いと思ってはいないであろう表情で、私たちに詫びると、ひょいと彼女を抱き上げた。
「何だよ、やたらとパカパカ飲むから、てっきり強いのかと思ったら、てんでじゃねえか。」
私の相棒、ルークが呆れたように言うと、抱えられた少女が、本人は怒鳴っているつもりらしいが、起きているのか寝ているのか判らないような
頼りない声で、応戦してきた。
「なあによ〜、まぁだまだいけるんだから、こおらぁー、降ろせ!ガウリイ。」
「ああ、わかった、わかった、また今度な。今日は戻るぞ。じゃあな、ルーク、ミリーナ。」
「いえ私も、もう戻るから。ルーク、あなたは飲んでいてもいいわよ。」
「えぇ、ミリーナそりゃ無いだろ、待ってくれよ。」
結局、夜の道を4人で (一人は歩いていないけど)連れ立って歩いた。さすがに人通りも無く、程よく酔っているせいか、寒いくらいの夜風も気持ちがいい。
「ふっ、うぅーん」
いつのまにか、眠っている少女は、自分の相棒の胸に額をこすりつけて、すっかり夢の中だ。以前私に自分の相棒の事を、あたしが面倒をみているとか、
ヒモとか(本当のところの意味を知ってはいるのか、甚だ疑問ではあったけれど)言っていたけれど、どうだろうあの安心して頼りきった顔、そんな風に全身を
預けてしまえる事の意味の大きさが、わかっているとも思えないけど。
ちらりと横を見れば、ルークはご機嫌な顔して鼻歌を歌っている、最近やたらと機嫌がいいようだ。何だかんだと絡んでいるが、きっと彼もこの二人が気に
入っているのだろう。そんなに長い事見ていたつもりは無かったのに、ルークは、まるで視線に気がついたかのように、こちらを向いて、嬉しそうに寄って来た。
「ミリーナぁ、酔って歩けないなら、俺が連れて行ってやるぜ。」
まったく、ちょっと目が合っただけなのに、突然何を言い出すのよ。それとも私がそんな顔して、あの二人を見ていたとでも言うのかしら・・・
「結構です。私がお酒に飲まれたことなど、一度でもあったかしら。」
いつものように軽くあしらうと、ルークの方もお約束のように大げさにがっくりと頭を垂れて、私の視線から消えていく。いつも通りのいつものやり取りだけど、
何かいつもと違って落ち着かない。多分あの二人が一緒にいる所為だろう、何だか意識があちらに向いてしまって調子が狂う。
ルークが黙ってしまうと、いつも話の口火を切る少女が寝てしまっているし、彼女の相棒の青年はもともと口数の多い方ではないので、誰も何も
話さないまま歩き続ける事になったが、不思議と不快感は無い、妙だが落ち着いた静寂だ。
たいして大きくない町には、まともな宿屋は1件だけで、そこに宿を取っているこの二人とは、その前で別れる事になる。なるべく感情を込めないように、
少女を抱えた青年と別れる事にした。
「それじゃ、ガウリイさんリナさんが目を覚ましたら、よろしくお伝えください。」
「おう、じゃあな。」
ルークが、軽く右手を上げて、立ち去ろうとすると、金髪の青年は、珍しく向うから声を掛けて来た。
「・・・って、あんたら、どこに泊まっているんだ。」
「ああ、俺らもここに来てみたが、満室だってんでしょうがないから、町外れの安宿に行く事にした。」
「って、お前あんなところにミリ−ナを連れて行く気か。」
まあ確かに、他に宿は無いので仕方ないとはいえ、彼の意見ももっともだ。私達が泊まろうとしている所は、宿とは名ばかりで、雨風が凌げるだけの
汚い板の間に客が並んで雑魚寝するだけ、しかも泊り客は、いわゆる裏街道を歩いている連中ばかりの、間違っても女の身で泊まりたいような場所ではない
「そう言われても、ここ以外で仮にも宿を名乗っているのは、あそこしかねえし、俺が一緒なんだから、大丈夫だろうさ。」
「だろうって、訳にはいかないだろう・・・」
彼は、ちらりと抱えている少女の顔を見て、数秒ほど黙ると、私の方を見た。
「じゃあミリーナ、オレと交代しないか。」
「交代?」
一瞬、意味がわからなかった私に、彼は言葉を続けた。
「おう、オレ達も一部屋しか取れなかったから、この酔っ払いと一緒で悪いけど、それでも良ければどうだ。」
悪いと言うのはこちらのセリフだ、私がすぐに言葉を返せないでいると、横からルークが返事をした。
「いや、そりゃ正直ありがたいけど、良いのかよ。」
「オレとお前ならどこだろうと問題ないだろう。ただ朝になったら、こいつから宿代を請求されると思うけどな。」
そう言って、抱えている少女を少し持ち上げた。
「いや、そりゃ構わない、ってか、こっちから頼むわ。」
私抜きで話は決まってしまった。そこまでしてもらう謂れも無いと思ったが、今更私が口を挟んでも、仕方ないし、ここは素直に話しに乗った方がいいだろう。
宿の前にルークを残し、二人が泊まる部屋まで付いて行く。本当に小さな部屋で、ベッドが一つあるだけで他には何も無い。青年は抱えている少女を
ベッドに降ろすと、耳元で普段より少し強い口調で話し掛けた。
「おいリナ起きろ、着いたぞ。起きろ。」
「ん〜、何ぃ?ガウリイ。あんたは床〜・・・」
「そうじゃないって、オレとミリーナと交代したから、ミリーナと一緒だから、迷惑かけんなよ。」
「・・・ミリーナぁ、何で〜?」
何を言っても起きそうにも無かった少女は、私の名を聞いて、目を擦りながら起き上がった。。
「起きたか、オレは、ルークと別のトコに泊まるから、ちゃんとしろよ。」
いつもとは反対だろう、と思われる会話をしながら、少女の頭をくしゃくしゃとかき回すように撫でた。少女の方も普段のように払いのけるような事もせずに、
眠そうな顔をしながら問い掛けた。
「ガウリイ、お金は〜・・・」
「ああ、あんな安宿に泊まる位は有るから、気にするな。じゃあお休み。」
もう一度少女の頭をかき回すと、私に片手を上げて出て行った。寝ぼけ眼の彼女と二人部屋に取り残されたが、よく考えれば正式に了解をとった訳でもない。
「それじゃ、私は床で構わないので、ご一緒させてもらいますけど、いいかしら。」
「えーっとミリーナなら、大丈夫でしょう。狭いけど、一緒でよければどうぞ。」
相変わらず半分寝ぼけたような顔だけど、意外とハッキリした口調で、自分が座っているベッドの上を2度叩いて、宿代半分でイイからと付け加えた。
二人とも装備を外して、上着を脱いだだけで横になった。アルコールが入っているのですぐに眠れるかと思ったが、なかなか寝付けない。
隣に気を付けてそっと寝返りをうったつもりだったが、どうやら彼女も寝てはいなかったようだ。
「ミリーナ、起きてるの。」
「すみません、起こしてしまいましたか。」
起きていた事はわかっていたけど、口をついて出てきたのは、そんな言葉だった。
「うーん、何かさっき起きたら寝られなくなっちゃった。」
「慣れない人間と一緒だから、眠れないのかもしれませんね。突然こんな事になって、すみませんでした。」
「別にそれはいいんだけど、どうせあいつから言い出したんでしょう。あのねえ、ミリーナ・・・」
ギシッとベッドが音を立てる、隣の少女が身を起こした様だ。特に何も感じないが、念のため私も上体を起こすと、彼女は座り込んで私の方を
見ているだけだ。何かあったという訳ではないようだ。
「あのね、ミリーナ、迷惑じゃなかった。」
「迷惑?」
「だってほら、ガウリイってば変なトコで自分の意見を押し通すって言うか、悪気が無いのは分かってても、何かイイ気がしない時ってあるでしょう。
だから、宿を交代したのだって、本当は迷惑だったりしたんじゃないかな、それなら悪かったかな、とか思って・・・」
目の前に座り込んだ、普段の行動からは想像できないような華奢な少女は、私の顔を見上げたり、そうかと思うと目をそらしたりと、どこか落ち着かないさまで
、結局語尾は消え去った。あの青年が、自分の意見を押し通すというのは、今ひとつピンと来ないが、とりあえず目の前の少女を安心させたいと思ってしまった。
「いいえ、迷惑な事なんかありませんよ。私だって、あんな所に泊まりたい訳はありませんから、本当に助かりました。」
「本当に?そう、それならよかった。・・・じゃあ、宿代半分はいいわよね。」
最後のは照れ隠しなのか、それにしても自覚しているのかどうかは別にしても、彼女を知っている人間でも、その容姿から与えられる印象分を差し引いても、
思わず優しい言葉の一つも掛けてあげたくなるような、少女らしい愛らしい仕草は、本当に私には、出来ない芸当だ。きっと愛されて育ったのだろう、
両親や回りの大人に愛されて、可愛いと言われて育ったのだろう、自分が愛されていると自身を持って確信できるのであろう。どうにもそれは羨ましく、
私のような人間には、ありえない自信だ。
「まあ、ミリーナが居なくて、今ごろルークが落ち込んでいるかもしれないけどね。」
「あなたが心配で、今ごろガウリイさんが落ち着きを無くしているんじゃないですか。」
「・・・そんな事あるわけ無いわよ。」
自分から言い出しておいて、照れる事は無いでしょうに、本当にどこまで可愛らしいのか。何だかこの場に居ない、金髪の青年の気持ちが
わかるような気がしてきた。
「そういえば、お金って・・・、あなたが持っているんですか。」
「アー、さっきの。そうよあいつときたら、どうせ支払いなんか一緒なんだから、面倒だからお前が持っていろだって。まったく、そんな事までやらせないでよ。」
そんな事って、それは取り様によっては、随分と意味深な発言だと思うけど、それともそういう事なのかしら。
「お二人は何時頃から、一緒に・・仕事をなさっているのかしら。」
「えーっと、1年半ぐらいかな。何で?そーいう、ミリーナ達は何時頃から一緒なの。」
「そうですね、半年ぐらいでしょうか。」
「へー意外と短いのね、もっとずっと一緒にいるのかと思った。ルークの一方的な会話以外は、息もピッタリだしね。」
「それは、言わないで頂けますか・・・」
本当にあれさえなければ、ルークは理想的なパートナーだと思う。彼も私をパートナーとして見ているものだと思っているが、それならあの言動は
何なのだ。どこまで本気か知れないけれど、目の前の少女のように愛らしくも無ければ、何ら見返りを与えている訳でもないのに、万が一にも
本気なのだとしても、可愛げのない無愛想なだけの私と一緒に居ても、面白くも楽しくも無いと思うのだけど。
「ミリーナ、何か外が騒がしくない。」
そう言いながら彼女は、裸足のままベッドを飛び降りて、がたがたと閉てつけの悪い窓を開ける。私も続いて外を覗き込む。夜中だというのに往来に
複数の人影があり、町の外れに向かって走っていく。
「喧嘩だ、喧嘩。外れの宿の連中だ。」
「警備を呼べ、こっちに来させるな。ったく勘弁してくれこんな夜中に・・・」
外れの宿と聞いて、私達は顔を見合わせた。
「まさかね・・・」
下着姿で如何こう出来るものでもない、とりあえず服を着て様子を見に行こう、と決めた矢先に誰かが部屋の戸を叩いた。
「ああ、良かった何ともないね。あの騒ぎは、町の外れで離れているし、すぐに警備が出てるから、ここいらは心配ないからね。あのお兄さんに、
女の子だけにするからって頼まれたからね。恐かったら私らの部屋に来てもいいんだよ。」
宿のおかみさんは、本当に心配して見に来てくれたらしい。私達は、また顔を見合わせるしかない。リナさんが適当なお礼を言って引き取ってもらった。
「ミリーナ、あのお兄さんって、どっちの事だと思う。」
「それは、決まっていると思いますけど。」
「う〜・・・で、どうする見に行く?」
「まあ、心配ないでしょう、子供じゃないんですから。」
私達は、何だかバカバカしくなって、このまま寝直す事にした。あの二人で、そうそう滅多な事などあるはずもない。
窓を閉めるときに遠くに聞こえた喧騒は、深刻さより囃したてるような明るさが混じっているようにも聞こえた。
翌朝、私達を迎えにきたルークとガウリイさんは、あちこちが汚れた服に、明らかに寝不足と見て取れる表情で現われた。
どうやら昨夜の騒ぎに参加していたらしい。
「ガウリイ、何してんのよ。こんな所でつまらない騒ぎを起こして。いったい何があったって言うのよ。」
「いや、オレは別に何もしていないぞ。博打やっていた連中が、イカサマだ何だと騒ぎ出して、喧嘩始めたら、町の連中や警備なんかがやって来て、
大騒ぎになっただけだ。」
「そりゃそうだろう、あんたは宿に着くなり、寝ちまったんだろうが。」
リナさんにいきなり詰め寄られても、いつも通りにのほほんとした話し方で事情を説明するガウリイさん。そしてその後ろに隠れるように立って、
何故か私の方を見ないルーク・・・博打って
「ルークまさか、賭け事はもうしないって、言いましたよね。」
「えっと、ミリーナ、いやその、ごめん。いやでも、あいつらイカサマだったから。負けた分は取り返してきたから本当に。」
「お金の問題じゃないです。・・・」
「何よ、ガウリイ。やっぱり喧嘩していたんじゃない。関係ないような顔して。」
「だから、オレは、やってないぞ。騒がしいなと思って目を開けたらもう始まっていたし、それほど深刻な喧嘩だった訳でもないし。博打も参加してないぞ、
そもそも賭けるほど金も持ってないし。」
「ちょっと、そういう言い方されると、まるであたしが取り上げてるみたいじゃない。お金ならちゃんと持たしているでしょうが。」
「あの金は、いざという時の為だから使うなって言ったじゃないか。」
「あんた、金まで握られてんのかぁ。」
これ幸いと、ルークは隣の会話に茶々を入れ始めた。そんな事で誤魔化せるとでも思っているのかしら、後でじっくり話をつけますからね。
「人聞きの悪い事言わないでよ。あたしが管理しているだけよ。預かってやっているの。あたしは別に、ガウリイに賭け事しちゃいけないなんて
言ってないわよ。あなたこそ、そんな事までミリーナに決められて、一から十までミリーナの言いなりってわけ。」
って、その言い方だと、私がルークの行動を決めているみたいじゃないですか。そもそも私のために賭け事を止めるってルークが言い出しただけで、
私は何も言っていないし、ああでもすると私が文句を言うのは筋違いだ。
リナさんは、私の左腕に自分の両腕を絡ませて、どうやらコレで一番低いらしい声で、不敵な笑みを浮かべて、ルークに向かってたたみ掛ける。
「でもね、ミリーナくらい綺麗だと、そんな男は掃いて捨てるほどいるわよきっと。愛の奴隷だかなんだか知らないけど、そんな事していて気が付いたら、
ただの奴隷1になっているかもしれないから、気を付ける事ね。」
「いやリナ、それは言いすぎだろ。こいつはただ尻に敷かれているだけだろ。」
「だから、あんたが言うな、っての。」
ちょっと、何それ何の話!?奴隷って尻に敷いているって、もしかして私達・・・私ってそんな風に見られていたの。可愛げのない女ぐらいはわかっていたけど
、奴隷って・・・嘘でしょう。
私の動揺を見抜いていると言う訳じゃないのでしょうが、リナさんが、私を見上げてにんまりと笑った。それでも可愛いのだから、なんともずるい。
同じ事を私がやったら、多分救いようが無い事になるのだろう。とりあえず引きつっているかもしれないが、愛想笑いを返しておく。ルークが情けない顔して、
こちらに助けを求めているけど、悪いけど今は勘弁して、私も助けてもらいたいぐらいよ。
生まれ持った不公平を嘆いたところで、始まらない。
*
おまけ
黒髪の青年が銀髪の女性に謝り倒しているのを横目に見ながら、栗色の髪の少女は金髪の青年に話し掛ける。
「本当っに、ルークってミリーナに弱いのね。ミリーナの話すると一発だもんね。まあミリーナは、本当に羨ましいくらい綺麗だからね。気持ちもわからないでもないけど。」
「わかってんなら、止めてやれって。尻に敷かれてんだから可哀相だろ。」
「だって、面白いじゃない。・・・って、あんたもそうだって言われてますけど。」
「そう思うのか。」
「思わない。あんたって我がままの上に手が掛かる。あたしみたいに面倒見の良い相棒と一緒に居るんだから、ちょっとは感謝しなさいよ。ちょっとこら、
何で目を逸らしてんのよ・・・それより重いからこれも一緒に持ってよ、ガウリイ。」
「おい、何で荷物が増えてんだよ。それでお前は手ぶらかよ。」
「話し終わんないみたいだから、先行くねー。またねミリーナ、ルーク。」