まあ、深く考えないで、さらっといきます。
お呪い−おまじない−
「おい、リナ。オレの荷物からこんなもの出てきたけど、お前さんのじゃないのか。」
「・・・」
見つかったか、残すところ今夜一晩だったのに・・・必死に無表情を装いつつ、落胆したようなほっとしたような気持ちで、
勝手に彼女の部屋に侵入してくる相棒に手を差し出し彼が渡した2cmほどもある赤い宝石を受け取る。
前の町を出てから三晩ほどの野宿を経て、やっと辿り着いた小さな町の小さな食堂兼酒場兼宿屋の店先でたらふくお腹に
詰め込んでから、隣り合わせの部屋を取って、お互い部屋に引っ込んだばかりだった。
手のひらの宝石は、鈍い光を放ちよくよく覗き込めば、古代文字で記した簡単な呪文が見えるはずだ。たかだか傭兵の割には、
なんだかそれなりに高い教育を受けているような所を時々におわせる男だ、勘違いかも知れないが用心に越した事はない。
魔道士だって普通は使わない古代文字でわざわざ呪文を記した。
「ああこれね、ただの護符よ。渡そうと思ったんだけど、うっかりして、とりあえずあなたの荷物に入れといたの。まあ、
ちょっと運が良くなるお呪い程度の物だけど、どっか荷物の底にでも入れておいてよ。」
「そっか、いいのか。じゃあ、ありがたく貰っとくけど、お前どうかしたのか?・・・いやいや深い意味はないって、
こら呪文を唱えるな〜!俺は戻るからな、じゃあお休みな。」
相棒を追いかけるふりをして部屋の扉まで行くと、ガチャリとかぎをかける。隣の扉が閉まる音を確認してから、はぁ〜と息を吐く。
あと一晩野宿だったらと、思わなくもないが、今更しょうがない。三日三晩も何のかんのと引っ張りまわした。
あのバカみたいに目のイイ男が、木立の隙間から、この町を見つけてしまったのだ。行かない理由は見つけられない。
宿に入れば荷物の整理は必然だ。何とか回避させようと、道に迷ったお詫びと称して、お酒も飲ませてみたが、疲れているから
ちょっとでいいとか言って、あまり飲まなかった。いやそうだろうけど・・・
とりあえず、さっきのセリフに嘘はない。あの宝石も今となっては、お守り程度のただの護符だ。もっとも、護符とするための
術の他にもう一つ、よくあるお呪いの術が掛かってはいたけれど。そう巷の女の子達がやる、自分に縁のある品物を意中の人にこっそり
持たせて、何日かすると二人は両想いとか言うあれである。
もちろん、魔道士たるリナが、そこいらの女の子達と同じ様に、何の根拠もないお呪いを掛けた訳ではない。そう、巷に流布する
お呪いの数々は、実は魔道士協会作のれっきとした魔道が元となっているのだ。ただ、悪用されるおそれのある術として、
魔道士協会の公開禁止術のリスト入りしている。まあ、片方の意向だけで、両想いにされてはたまったものではない、当然の
措置であろうけど。
その禁止されている術を調べて、用意周到にして完璧に相棒に掛けたのである。そもそも、術に使える宝石を覚えていて、
尚且つ手に入れてしまったのが、運の尽きだろう。
扉の前で、誰もいないのに真っ赤な顔を両手で隠して、自分が行なった一連の行動を思い出して、身悶えた。よりにもよって
相棒にガウリイに、何やっているんだあたし、しかも失敗するとは、リナ=インバースの名がすたる・・・いやそこじゃないか。
まあ、失敗してしまったものは、仕方ない。ふらふらと歩いて、ベッドに正面からダイブする。当然のことながら、
お呪い(おまじない)とは言え、ここまでやってしまえば立派な呪い(のろい)である。人を呪わば穴二つとか、どこかの国で
言うそうだけど、呪いは破られた以上、術者に返ってくる。この場合、術を破られるとは、ガウリイに見つかった事、
術はリナに返ってくる。・・・枕をボスボス叩き、ベッドの上で身をよじる。
返ってきた術により、術者はかけた相手に惚れてしまうのだ。
だがしかし、この場合は、すでに惚れているので問題なし。
「そりゃ、そこまで考えていたけど、全然何も変わらないって、何だかな〜。」
おわり